2011年2月19日土曜日

日本のGDPはいつから世界第2位だったのか:「1968年から世界第2位」だったという各紙の報道は本当か?

内閣府の発表で、日本の2010年の名目GDP(ドル換算)が中国に逆転され、世界第3位になったという報道が2月14日にありました。

ところで、こうした報道のなかでほとんど必ず出てくるのが、日本は1968年以来、米国に次ぐ世界第2位の経済規模を保ってきた、という指摘です。多くの新聞で、このように書かれています(日経新聞ではこちら。朝日新聞ではこちらや、こちら。毎日新聞ではこちらや、こちら。東京新聞ではこちら。読売新聞ではこちら。産経新聞ではこちら。読売新聞採用サイトではこちら)。なかには丁寧に、「42年で世界第2位の座を譲り渡した」としている記事もあります。

ところがインターネットで調べていたら、この1968年に世界第2位になったというのは間違い、と指摘しているサイトが見つかりました。こちらです。見ていただければわかりますが、1968年に日本は「資本主義国で世界第2位」になったのであって、当時はまだソ連のほうが日本よりGNPの規模が大きかったので、1968年には日本は世界では第3位になったに過ぎない、というわけです。上記のサイトでは、その根拠として、高校日本史の教科書や、政府のHPを複数挙げています。

ただ残念なことに、典拠だという日本史の教科書のページ数が記載されていません。これはいただけません。そこで早速、調べてみました。まず実教出版の『日本史B』新訂版(平成15年発行)ですが、p.347において、「日本経済は、1955(昭和30)年ころから73年ころにかけて年率10パーセントをこえる成長率で高度成長をとげ、国民総生産(GNP)はこの期間に実質5.4倍となり、1968年にはアメリカについで資本主義世界第2位となった」とありました。また、清水書院の『詳解 日本史B』改訂版(平成12年発行)では、p.343において、「船舶・自動車・鉄鋼の輸出が大きくのび、日本の国民総生産(GNP)は資本主義国ではアメリカについで世界第2位(1968年)の経済大国に成長した」とありました。

確かに、どちらも、日本のGNPが1968年に資本主義国のなかで世界第2位になったと書いています。では、日本のGDP(当時はGNPで比較するのが一般的でしたから、教科書ではGNPとなっていますが、GDPでもほぼ同じことです)が、社会主義国も含めて文字通り世界第2位になったのは、つまりソ連を抜いて世界第2位になったのは、一体いつだったのでしょうか? 残念ながら、これを論じているWebページが見あたりません。そこで、統計にあたって調べてみることにしました。

参照したのは、UN(国連)のStatistics Divisionが提供しているNatinal Accounts Main Aggregate Databeseです。ここの上から2番目に、GDP and its breakdown at current prices in US Dollarsという項目があります。この項目のなかにあるAll countries for all years - sorted alphabeticallyをクリックすると、世界各国の1970年以降のGDPのデータ(それ以外も含まれていますが)のExcelファイルを取得できます。以下は、このデータに基づく記述です。

まず1970年、ソ連のGDPは4334億ドル、日本のGDPは2029億ドル。確かに日本は、ソ連の足元にも及びません。このように、日本が経済規模でソ連に負けている状態は、1977年まで続きます(ソ連7384億ドル、日本6886億ドル)。そして1978年になって、ソ連のGDPの8401億ドルに対して、日本のGDPは9676億ドルとなり、逆転します。日本が、社会主義国も含めて文字通り世界で第2位の経済規模の国になったのは、この1978年だったわけです。ちなみに、この年に日本のGDPが一気に40%も増えたのは、すさまじく経済成長を遂げたというわけではなく、急激に円高が進んだのが原因です。この年、1ドル=300円台から一気に170円台にまで円高が進みました

せっかくなので、この統計で、Germanyがソ連を抜いて世界第3位になった年を調べてみたら、1986年でした。前年(1985年)と比較すると、GermanyのGDPが一気に4割以上増えています。ちなみに日本もこの年、5割近く増えています。これは、前年にプラザ合意があって、この頃マルク高・円高=ドル安が進んだせいですよね。国際比較のためにドルに換算すると、どうしてもこのような為替レートの急激な変動の影響が出てしまいます。

いずれにしても、各紙が報道するように、日本のGDPが「1968年から世界第2位」だったとか、「世界第2位の座を42年で明け渡した」というのは、どうも間違いなのではないでしょうか。そうではなく、「1978年から世界第2位」で、「世界第2位の座を32年で明け渡した」というのが、事実認識としては正しいのではないでしょうか。そうだとしたら、どうして、各社揃って判で押したように間違えているのでしょうか?


(注1)上記の国連統計を見ていると気づくことですが、1970年の時点では、日本のGDPは、GermanyのGDPを下回っています。日本のGDPがGermanyを上回るのは、1972年のことなのです。これについては、2通りの解釈がありえます。第一の解釈は、そもそも日本のGDPが西ドイツを上回ったのは1968年ではななかった、というもの。第二の解釈は、Germanyのなかに西ドイツと東ドイツとの両方が含まれている(ので、両者を合算したGDPでは、1971年までは日本を上回っていた)、というものです。じつはこの統計には、旧東ドイツを意味するGerman Democratic Republicという国名も、旧西ドイツを意味するWest Germanyという国名も見当たりません(旧ソ連や、旧ユーゴや、旧チェコスロバキアなどはあるのに)。このことから考えるに、わたしとしては、第二の解釈を取りたいところです。

(注2)上記の国連統計を見る限り、某質問サイトにある国連推計と称するデータは、正しくありません。学生諸君は、こういう「OKwave」とか「Yahoo!知恵袋」などを鵜呑みにするのではなく、きちんとご自身で統計を確認して下さい。何しろ今は、インターネットのおかげでじつに簡単に、統計にアクセスできる時代なのですから。

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