2012年2月9日木曜日

私はどのように成績をつけているか

学期末試験が終わりました。今日は、私がどのように成績をつけているのかについて、ご説明いたします。

私は、多くの授業科目で、レポートではなく筆記試験を課しています。千葉大に奉職した最初の年は、論述のみの出題だった科目もありましたが、2年目からは、どの科目でも穴埋め問題と論述問題とを併用しています。

まず穴埋め問題の採点については、正答を記した答案用紙を脇に置き、これを見ながら丸付けをしていきます。なかには、語句の書き間違えなど、微妙な判断を要するものも出てきますが、これらについては、その時の配点なども勘案しながら、対応方針を決めます。

次に論述問題についてですが、これについては、いきなり採点することはありません。まず、答案を20~40枚ぐらい読みます。こうして、よく書けている答案を探し出し、それに95%以上の高い点数を付与します(場合によっては満点とすることもあります)。また、全体的な出来具合や記述の傾向を把握し、よく書けている答案の出来具合と比較しながら、採点基準を決めていきます。こうして採点基準が固まってから、はじめて採点に取り掛かります。

この論述の採点にあたっては、休み休みやるわけにはいかず、まとまった時間をつくって一気に答案を読み進めていかねばなりません。というのは、論述の採点ですので、時間をかけていればいるほど、採点基準がブレる恐れがあるからです。しかし、同じような記述のものを大量に読み続けるので、どうしても飽きてくるし、集中力も落ちてくるし、決して楽とは言えない作業です。こうしたなかで、思わず惚れ惚れするような優れた答案に出会うと、疲れも多少は和らぎます。他方で、私の授業での説明を曲解した答案に出会うと、疲れが倍増しそうになりますが、しかしこの種の誤答は、私の授業(での説明方法)を改善する上での手がかりとなるものなので、きちんとメモしておきます。

こうして一通り答案を採点し終えたら、まず、点数の計算間違いをしていないかどうかを確かめます。人間は不完全な生き物である以上、単純な計算間違えをやらかすこともありえますので、この作業は必須です。

次に、学籍番号と氏名が記されたMS-Excelファイルに、ひとりずつ点数を入力してきます。その後、このファイルへの入力そのものに間違いがないかどうかを、答案と照らし合わせながらすべて確認していきます。

さて、普通の教員の場合だと、これで採点作業は終わりかも知れません。しかし私はそうではありません。ここから時間がかかるのです。

まず、Excelの関数を使ってテスト受験者の評定平均を計算し、これが1.0を下回らないかどうかをみます。このとき、1.0を下回っていた場合は「採点が厳しすぎた」と捉え、平均点を少し上げる方法を考えます。具体的には、論述の採点基準を少し緩めるとか、穴埋め問題の配点を変更する(不正解の多い問題の配点を低くする代わりに、正解の多い問題の配点を高くする)とか、あるいは全員に一律に1点加点するといった方法がありえます。ここで論述の採点基準を少し緩めたりした場合には、また採点のし直しになりますので、大変な作業が待っています。ただし過去2年ぐらいは、当初の採点で評定平均が1.0を下回ったことは、ありません。

こうして評定平均が1.0を越えたことを確認したら、次に、不可になった人のうち、60点のボーダーラインにギリギリ届かなかった人(おおむね55点以上)の人の答案を、再度確認します。つまり、本当に不可にして良いかどうかを、確認するわけです。そのために、該当者すべての答案を再度読んで、採点そのものに間違いがないかどうかをチェックします。穴埋め問題の確認は簡単ですが、問題は論述問題の確認です。というのは、論述問題については、読んでいるときに採点基準が微妙に揺らいでしまい、同じような出来具合であっても点数が1~2点程度ズレることがあり得るからです。こうした「揺らぎ」で、本来は単位を取得できる学生が不可になるということは、許されないことだと私は思っているので、この確認は絶対に欠かせません。

しかし、この確認作業には結構時間がかかります。「この人を本当に不可にして良いだろうか、何か不当に評価を低くしてしまっているということはないだろうか」と自問自答しながら逡巡してしまうからです。ボーダーラインぎりぎりの学生が多ければ多いほど、この確認に時間がかかります。それはともかく、この確認をしていくなかで、稀に、「当初59点だったが60点で通して良い」という方が出てくることがあります。ですが、多くは、悩みに悩んだ末に、「やはりダメだ、単位を出すわけにはいかない」という結論に達します。このようなプロセスを経ているので、この種の答案についてはすべて、「どこがどのようにダメで単位を出せないか」を明確に説明できる状態になっています。

このように、評定平均を計算するところ以降の作業には、おおむね1日を要します。場合によっては複数日にまたがって逡巡することも、あります。悩んでしまって眠りが浅くなることさえあります。非常に真摯にやっており、かなり神経を使っています。

ここまでをまとめますと、私は単に採点し入力して終わりではなく、①点数の計算間違いがないかどうか、②Excelファイルへの点数の入力に間違いがないかどうか、③本来は可であるべき人を間違えて不可にしてしまっていないかどうか、というように、三重のチェックをして成績をつけている、ということです。他の教員がどのように採点しているかは知りませんが、おそらくここまで丁寧にやっている教員は、なかなかいないだろうと思います。私は、間違いのないよう真摯に、かつかなり神経を使いながら、何段階もの確認を経た上で成績をつけているのだということを、声を大にして強調しておきたいと思います。

もちろん、人間のやることですから、ここまでやっても絶対に間違いが発生しないとまで言い切るつもりはありません。じつは私は学生時代に、ある授業科目の評点が40点台で不可になったことがあるのですが、いまだにどうも解せません。もしかすると採点間違いだったのではという気も今となってはするのですが、いかんせん私の学生時代には、学生が教員に対して成績の異議申し立てをする方法など、ありませんでした。ですから、学生が異議申し立てをする機会は、必要だと思います。思うのですが、私は何重にもチェックをし、特に不可にする人については確認に確認を重ねた上で成績をつけていますので、成績つけにおいて間違いはまず犯していないだろうという自負がありますし、ここまで読んでくださった方ならば、私の成績つけにミスが発生しているとか、本来は可なのに間違って不可にしているなどという確率はきわめて低いということを、おそらくご理解いただけるものと思います。

ですから、私は学生諸君からよく「成績に関する調査申請書」を受け取るのですが(単位の認定が厳しいからです)、改めて確認しても、採点や成績が間違っていたなどということは、ただの一度もありません。大学の教員としての職を全うし終えるまでにはまだ相当の年月がありますが、生涯にわたって一度も採点ミスを出さないよう務めるという目標をもっています。

少し脱線してしまいましたが、このように採点を終えたら、採点結果表を取りまとめ、さらに講評を書き上げます。これも結構大変な作業でして、だいたい丸1日かかります。出来上がった採点結果表と講評はすべてWebで公開し、学生諸君が読めるようにしています(講評については受講者のみ)。ここまで詳しい採点結果と講評とを公開している教員は、少なくとも千葉大学にはいないだろう、と密かに自負しています(もしいたら、教えてください)。

さて、このように私は半年の授業を終えた後に単に成績つけを行なうだけではなく、授業に関する情報公開にも積極的に取り組んでいるわけですが、残っている仕事が、実はまだあります。それは、採点のときに気付いた学生諸君の誤答傾向や勘違いなどを自分なりにまとめ、吟味する、という仕事です。これをやらないと、授業内容が進化しないのです。特に正答率の低かった問題に関する講義内容の部分は、説明や解説方法を改良する余地がある可能性が高いと思われます。そこで、どうすれば学生諸君の誤答や勘違いを減らせるかを考え、それをメモしておきます。場合によっては、すぐに次年度以降用の講義ノートや資料を改訂してしまうこともあります。さらに、次回開講時のために、手直しをしたシラバスをすぐ用意してしまうこともあります。こういう改訂や修正は、気付いた直後に済ませておくのが肝心でして、後からやるのでは効果半減なのです。

いずれにしても、テストの採点というのは、教員にとっては、自身の授業内容の良くない点を反省し、改善するためのさまざまな示唆を与えてくれるものだと感じます。換言すれば、教員は、テストの採点を通じて自らの教育方法を反省できるということです。私は授業が得意ではないのですが、せっかくやる以上は、学生諸君には少しでも正確かつ深く理解して欲しいと思いますし、またひとりでも多くの学生諸君に単位を取得して欲しいとも思います。そのためにも、この採点を通じた反省を次の授業にうまく活かしていくことが重要だと考えています。

これらの仕事が終わったら、ようやく、その半期の授業にまつわる仕事からは、解放されます。もちろん、また次の半期の講義準備もしないといけません!とはいえ、教員にとってはまとまった研究時間のとれる貴重な時期の訪れです。研究者にとっては、待ちに待った時間なのです。私も、締め切りを控えた次の執筆に、取り掛かっていかねばなりません。

0 件のコメント:

コメントを投稿