2014年6月21日土曜日

学会報告も見せ方が9割?:良いプレゼン、悪いプレゼン

社会科学者にとって、6月は、秋とともに、学会シーズンです。今月は2つの学会に参加しました。

学会に参加して考えることのひとつに、「プレゼンテーションの方法」があります。「報告内容は良いはずなのにプレゼンテーションの仕方に問題ありと思える報告」もあれば、逆に、「報告内容はいたってノーマルだけれどもプレゼンテーションの仕方が良いので好印象を残す報告」など、いろいろあります。内容もプレゼンテーションも両方すばらしい、という報告は、残念ながらあまりありません。

わたしが、「このプレゼンには問題があるなぁ」と思うのは、次のような報告です。第一に、PCばかり見ていて聴衆のほうをちっとも見ない報告、第二に、抑揚なく喋っている報告(寝不足のときだと眠くなりそうです・・・)、第三に、限られた時間に内容を盛り込みすぎているので、極度に早口になっている報告(ついていけません)、第四に、限られた時間に報告が終わりきらないので、途中でスキップしたり、以後省略となったりする報告(消化不良を起こします)、第五に、PPTのハンドアウトが醜い報告、第六に、PPTの色使いに問題がある報告、第七に、PPTの画面を指すためのレーザーポインターをやたら動かすのでスクリーンを見つめにくい報告(画面を見る気がしなくなり、聞く気も失せます)、などです。

第一と第二のパターンに遭遇して思うのは、「こういう人は、いったい大学ではどのように授業をしているのだろう?」ということです。まさか大学でも、学生さんの顔を見ずにPCを見ながら抑揚なく喋っているのでしょうか。おそらく、そういった教員の話をきちんと聞いて理解してくれる大学生は、拠点大学の一部の学生だけではないかと思います。

第三と第四のパターンについては、報告資料の分量が異様に多いのが特徴で、報告が始まる前の段階で、「いったいこの内容を、どうやって○○分で終わらせるのだろう?無理では?」と思うことが多い。そして実際にその通りになります。限られた時間で過不足なくメッセージを伝える、という準備が、完全に不足しています。きちんと時間を計ってリハーサルをやっていないと思わざるを得ません。

第五、第六、第七のパターンは、PPTに特有の問題です。このうち第五と第六については、「『PPTをPCで作成したときの見え方と、それを広い会場のスクリーンに移したときの見え方は異なる』ということが、わかっていない」と思われます。
 具体的には、①フォントサイズが小さいので見えない・見えにくい、②色使いが悪くて見えない・見えにくい、③図表や画像をどこかから切り貼りしているので解像度が低くて見えない・見えにくい、などです。
 まず①については、PPTをスクリーンに写すのであれば、フォントサイズは一定以上(「24ポ」以上と言われています)にしないといけません。こんなことは、わかっている人には当たり前すぎる常識なのですが、意外と守られていません。
 次に②については、白地の背景色のところに、黄色や黄緑色などの薄い色の字を配置している結果、その字がスクリーンでもハンドアウトでも見えない、というのがよくあるパターンです。それにしても思うのは、ハンドアウトについては印刷すれば簡単に確認できるはずなのに、どうして見えない・見えにくいハンドアウトを持ってくるのだろう、ということです。きちんと印刷して印刷物を確認する、という手間を怠っているのではないでしょうか。
 そして最後の③についてですが、これもPPTで見えるように図表を作り直す、という手間をかけることを怠っているのです。要は面倒くさがりか、準備のための時間を惜しんでいるかのどちらかだと思います。いずれにしても、これらを守れないのならPPTなぞ使わなければ良いのに、と思います。


ちなみに、わたしがいままでに最も素晴らしいと思ったプレゼンテーションは、アジア経済研究所の平野克己氏のものです。聞き取りやすい声、明確なメッセージ、そして時間厳守というのは、まあ真似できるとしても、聴衆をひきつける話しぶりは、「これはちょっとまねできない」と思いました。ですが、こういうプレゼンテーションができると、聴衆に強い印象を与えます。実際に、平野氏のプレゼンに対しては、聴衆から多くの質問が寄せられていたと記憶しています。

いかなるプレゼンテーションであっても、その「内容」などは、1週間もしないうちに大半を忘れてしまいます。しかし、そこから受けた「印象」は、何年も記憶に残ります。『人は見た目が9割』というタイトルの本がありましたが、ひょっとすると「学会報告も見せ方が9割」かもしれません。日本の学者は、「どのような内容を報告するか」よりも、「どのようにして聴衆に鮮烈な印象を残すか」ということのほうに、もっと気を配るべきだと思います。

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