映画「標的の村」を見ました。
2009~10年の民主党・鳩山政権のおかげで、沖縄の米軍基地問題、とりわけ普天間基地の辺野古移設問題は、よく知られるようになったと思います。しかし、依然としてあまり知られていない沖縄の基地問題が、あります。沖縄本島の東村(ひがしそん)高江地区の米軍ヘリパッド新設問題は、その一つです。
これに反対して工事車両を入れまいと道路に座り込んだ高江の住民に対して、日本国政府は、「通行妨害」という名目で、住民15名を裁判に訴えるという、前代未聞の動きに出ました(現在、裁判は継続中)。これは、いわゆるSLAPP訴訟(反対意見を封じ込めることを目的として、権力のある側が個人を訴える裁判のこと)であると思われます。アメリカでは、SLAPP訴訟は多くの州で禁じられているそうですが、我が国ではこうした訴訟を、政府が率先して行なっているという、たいへんに情けない状況です。
しかも、被告にされた住民15名のなかには、反対現場に行ったことさえない7歳の子供が含まれていたのです。これがSLAPP訴訟でないとしたら、いったい何なのでしょう。
この映画は、もともと高江地区とそこで暮らす人々に焦点をあてた琉球朝日放送によるテレビドキュメンタリー番組でしたが、全国的な反響をうけて、また最近のオスプレイ配備の動きなどをうけて、大幅に拡張された、見ごたえのあるドキュメンタリー映画です。沖縄で基地をめぐり繰り広げられている多様な暴力(それは、直接的なものとは限りません)が、日々の報道を生業とするテレビ局のカメラならではの迫力で、生々しく描き出されています。その迫力はすさまじく、多様な暴力の一つ一つを、涙なしで見ることは、とてもできません。
「高江にゼミの学生を連れて行ったら、住民から話を聞いた女子学生がぼろぼろ泣き出したよ」とは、関西のある大学に勤める友人が昨年に私に語った言葉ですが、こう聞かされたとき、正直言ってよくわからなかった。ですが、この映画を見て、はじめて、その女子学生の気持ちがわかった気がしました。それにしても悲しくなるのは、こうした多様な暴力が、東京の主要メディアではほとんど報道されていない、ということです。特にテレビがひどい。
「標的の村」という映画のタイトルは、もともとベトナム戦争の時代に、当時沖縄を支配していたアメリカが、高江の住民を駆り出し、彼らにベトナム人の役割をさせながら戦闘訓練を行なっていたことに由来しているようです。このこと自体、驚きですが、映画を見ていてもう一つ驚かされたことがあります。それは、この訓練において、枯葉剤が使われたという元米軍兵による指摘です。枯葉剤が米軍統治下の沖縄でも使われていたのがもしも事実なのだとしたら、たいへんなことだと言わねばならない。
映画でもっとも印象的だったのは、たしか最後のほう、普天間基地のゲートでの座り込みを排除すべくやってきた警察官に対峙した女性の一言です(このシーンは、Youtubeにアップされたこの映画の予告編でも見ることができます)。沖縄の基地をめぐる構図の本質として、監督の三上智恵さんがもっとも伝えたかったことは、これだったのではないか。そう思いながら、帰宅後に、彼女のインタビューをネットで探し出し、おそるおそる読んでみましたが、どうやら私の理解で間違っていなかったようで、少しホッとしました。
この映画で優れていると思うところはたくさんありますが、その一つは、沖縄の音楽文化の豊穣さをうまく取り入れている点です。沖縄の人々の生活に根付いている唄や音楽が、ストーリーのなかでじつに効果的に取り入れられ、紹介されていて、見る者は感情を揺さぶられる。おかげで、内容はシリアスでありながら、単に硬派なだけのドキュメンタリーとは一線を画した映画になっています。このように映画のなかで音楽をうまく使っていることは、三上さんが沖縄民俗に精通していることと無縁ではないような気がします(まったく勝手な推測の域を出ませんが)。
Wikipediaによれば、三上さんは、千葉県の東葛飾高校のご出身だそうです。千葉大では、東葛飾高校の卒業生がたくさん学んでいますが、彼らには、母校の先輩が作ったこの素晴らしい映画を、ぜひ見て欲しい。もちろん東葛飾高校の卒業生以外にも。そう強く願います。そして、見るときは、涙を拭くハンカチをくれぐれも忘れずに。「ハンカチは持っていったけれど、使わなかった」-そういう人とは友達になりたくはない。そんな映画です。
○映画「標的の村」公式サイト:http://www.hyoteki.com/
○琉球朝日放送「標的の村」公式サイト:http://www.qab.co.jp/village-of-target/
○やんばる東村 高江の現状:http://takae.ti-da.net/c144676.html
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